0504-0511

5/4(木・祝)
山口旅行2日目。

泊まっていたビジネスホテルでは結局体操着姿の男子中学生集団しか見かけなかった。運動部の集団はジャージで何部か見当がつくものだが、この人達はずっと学校指定の体操着だった。Hによると「駐車場に久留米ナンバーのハイエースが停まってた」(T「よく見てるなあ!」)らしい。彼らの去った後の食堂で我々だけで朝食をとった。メンチカツがあって嬉しくて帰りの新幹線でとったメモに「メンチカツ」とだけ書いてある。テレビでは子供のギタリストとベーシスト、けん玉名人(踊る)、ペン回し名人(踊る)が立て続けに出てきて一芸披露していた。ペン回し名人はペン回しの図案が左胸についたポロシャツを着ていて、それがずっと面白い。たまにテレビを見ると刺激が強すぎてそれでいっぱいになる。早く食べ終わらなくては。

まず防府佐渡川ぞいの公園に日本最大級の円筒分水工を見に行く。こうして書くと唐突な感じがする以上に実際は唐突だった。Hは「ブンスイコー行っていい?」と聞いてくれてはいたのだが車に乗ったらもう着いていた。分水工は農業用水を分配するための利水施設。そういったことが立て看板に書いてあり、分水工を小高いところから眺めるためのテラスも整備されている。分水工の手前にはため池があり、ため池の手前には学習用のポンプと水車が設えられていた。手押しポンプを押し、ハンドルを回して遊ぶ。また車に乗り込もうと駐車場へ移動すると、作業用のバンが続々と入ってくる。川沿いには大型クレーンが何台か停まっていて、どうやらロープを対岸に渡してこいのぼりをはためかせようとしている様子。こういったことはちょっと眺めている間にHが把握して説明してくれる。「あそこにこいのぼりっぽい布があって・・・」「あの草むらの中に大砲が設置してあるからたぶんあそこからロープを発射して・・・」しかし最終的に川の中を人がジャブジャブ歩いて対岸にロープを持って行った。あらゆる事態を想定して手順が組まれ、毎年現場で試行錯誤しているのだろう。車に乗り込んで佐渡川上流に移動すると、完成した「こいながし」を見ることができた。先ほどとは対照的にすごい人出。橋のたもとでは大小さまざまなこいのぼりを手に持って橋って泳がせている親子連れ多数。就学前の子が全長何5メートルほどの黒い大きな鯉(背中に金太郎がのっている図案)を泳がせるべく全力疾走してくるのを望遠レンズを構えて待ちかまえるおじさんが何人もいる一方で、中学生男子が1メートルくらいの可愛らしい鯉をそよがせながらテクテク歩いてきて「これくらいがちょうどいいよ~」と独り言を言っていて笑った。手に持って遊ぶ用のこいのぼりは河原に打ち上げられて横になっていて、30過ぎの独身の人間が手に持って遊べるほどたくさんあった。遊んでいるとどこからかこいのぼり(を断ってつくられたはっぴ)を着たおじいさんが近づいてきて「はい。これで宣伝してね」と高々とあげられた凧の持ち手を急に手渡される。情報が多すぎる上に凧まであげていないといけなくなった。こいのぼりの他にタコやイカ、蝶などカラフルな凧をあげている人もいたのだが、急にその当事者になった。後からわかったことだがこいのぼりは無料、凧は200円だった。その「宣伝」なのだった。こいのぼりを着た実行委員風の人は何人もいて、笠をかぶって小舟に乗って水上にいたりもする。子供もいて、屋台の裏でやきそばを食べていた。あのおじいさんもおじいさんになる前からずっと運営に携わっているのだろうか。橋の上から「こいながし」を眺める前からお腹いっぱいになった。

昼食はゆめタウンの中のどんどんでとった。地元で評判のラーメン屋はどこもいっぱいで入れなかった結果だが、ローカルチェーンに入れて嬉しい。博多で食べたようなぷにぷにのうどん。レジ横で売られているわかめふりかけのかかったおにぎり。別皿に大量に添えられたネギ。

昼食後、私のリクエストでYCAMへ。「The Flavour of Power 紛争、政治、倫理、歴史を通して食をどう捉えるか?」展。駐車場は満車で第2駐車場に停めたのに、館内はひっそりしていた。大階段を登り切るとYCAM周辺の山々がガラス窓の向こうに見えていて、窓に設置されたモニタでアニメMVのような映像が流れていた。手前のスペースに椅子とテーブルがあって、バクダパン・フード・スタディ・グループによるボードゲーム「ハンガー・テイル」が手に取れるようになっている。そこに描かれているイラストがモニタの中で曲にあわせて動いているのだった。この曲のボーカルの歌声がアンニュイでかわいい!のだがそういった感想はすぐに言葉にはならず、HもKも展示の見方を掴みかねて「難しい・・・」と言っていて気まずかった。Hはその場で川や利水施設の見所を教えてくれるが私は自分が興味のあることを前にしてそれができない。まあいいや、せっかく寄ってもらったから集中して見よう。そう考えている間にもTがさっとフリップをめくってボードゲームのルールを把握していてさすがだった。どこに行きたいとかは言わず黙ってついてきて、ときに運転をし、食事どきになれば助手席で背中を丸めてスマホを操作して飲食店を探す。手が大きいので手のひらに指文字を書いているように見える。昨年もそうだったがヴィッツもアクアも180センチ越えの人は運転席以外頭がつかえるという衝撃の事実。城やダム、展示物のそばにパネルや看板があればしっかり読んで「なるほどね」。展示室に入ったら案の定私だけ長居してしまったのだが、Tは戻って様子を見に来てくれたり、展示物のタッチパネルの中から自分の興味のあるトピック(日本がインドネシアで作ったプロバガンダ楽曲の楽譜と音源)を見つけて歩調を合わせてくれたりした。楽譜があったらとりあえず読むという習性があるのかもしれない。そういえば萩の唱歌の石碑の前でも足を止めていた。そんなTの気遣いと、大音量のプロバガンダ楽曲と、暗がりの中で揺れる稲穂のCGアニメが印象に残っている。YCAMを出るとオクトーバーフェストが開催されていて、たぶん駐車場の車はだいたいここのお客のものだった。

16時半に景清洞に滑り込み。受付の女性に「17時まで時間がないので手前の散策コースは流し見して探検コースの入り口まで行ってください」「この横穴には絶対に入らないでください」と険しい顔で説明される。この時まで4人中誰も予想していなかったことだが、ライトとヘルメットの他に長靴を借りることになっていた。靴下も脱いでおかないとドロドロになるほど水深があるらしい。出てきた人が自分の登山靴の紐を結びながら「ナメてました」「けっこうハードです」。この人は山によく登っていそうなのに自分はどうなってしまうのだろうかという不安。それは的中した。水底の岩の配置が見えず足裏で探るしかない。転倒して頭を打って担架で運び出されるとか、スマホが水没するとか、悪い想像でいっぱいになった。絶対に入ってはいけない横穴、を誰より早く見つけ、無言で近くまで突進するH。「やると思った~」とか声をかけても一切反応せず、グッと前のめりになって奥を覗き込んでいる。展望台でいち早く最上階に到達して柵に手をかけて腰をおろしたりもするのだが、ふざけている訳ではなく、ベストポジションで景観を見たいようだ。横穴の後は女ふたりの手助けをしてくれた。どこに足を置いたらいいのか教えてもらわないと進めない箇所多数。こんなにどん臭い人間が無傷でいられたのはHのおかげ。Tは先頭に立って遙か先から「ここの看板に中間地点って書いてあるー」などと教えてくれる。長靴の中を水でいっぱいにしてついていく。ノースフェイスのTシャツの背中が頼もしい。後でわかったことだがTは岩の上を渡り歩き、長靴の中には一切浸水させずに帰還。完全攻略だ。(Hはそれを聞いて「リーチが長いから有利・・・」とやや悔しそうな顔をしていた)服は全員泥ハネだらけになった。

長門湯本に移動。ここは星野リゾートが開発して息を吹き返した、とH。川沿いに座るところやちょっとしたテーブルが設置されている。ここに飲み物を置いて写真を撮れば背景に温泉街の景観がばっちり入る。インスタ映えスポットでテンション高いHというのも意外だったが、ここは土木学会デザイン賞最優秀賞を受賞しているからなのだった。私などはパッと見で、こんなの「映え」のために無理矢理引き入れた嘘の川じゃないのか?と侮っていたが、嘘の川にもよしあしがあるらしい。「ちゃんと砂や石を運んできて敷いてある」など(あとは忘れた)と感心するH。そんなきらびやかな温泉街の中に我々の泊まるボロ旅館はあった。ボロさはネットの写真で検証していたが、検証しきれず面食らったことを書いておく。増築に次ぐ増築・・・とともにおこなわれたであろう無理な配線。漏電と火事が怖い。廊下を人が歩いてくるとギシギシ音がしてちょっと揺れる。夜寝ている時に打ち付ける雨音、風を受けての揺れからして大災害レベルかと思えた風雨が、翌日のニュースによると注意報レベル。チェックイン時にスウェット上下(上はハーフジップ)に裸足で出てきた男性スタッフが「満室ですので」と言っていて、しかし後でこっそり探検すると明らかに長年使っていなさそうな客室フロアがあって空気がよどんでいた。そこだけ湿気と匂いが違った。食堂に平成天皇、皇太子の写真が飾ってあるのを見てHが、老舗ではありそうだが本当にこんなところに宿泊したのか?と怪しんでいたがそもそも旅館の前で撮影された写真ではなく、新聞記事についているような写真だった。

旅館の人が文字通りお膳立てしてくれる、というのがどうも落ち着かないし、繁忙期だけ呼び集められたであろう助っ人も落ち着きなくウロウロしていて気まずかった。夕食時にTに茶碗をわたすと、ご飯をついでくれていた年配の女性が「あ、お父さんに回してくれたんやね」と言った時が一番気まずかった。あまりの衝撃(え!?あと誰が何!?)に誰も「いえ、私たち男女4人は1~2歳しか年の変わらない友人同士です」と言わなかった程だ。単純に体格差から口をついて出ただけのような気もする。Tが「家族連れが多いんやろな」と言った後「まあ、お父さんと友達、かもしれないし」と笑って、それが腑に落ちた。ほっとする言葉で、ほんのりと温かいまま心に残っている。デザートに出てきたのが今年度初のすいか。

5/5(金)

山口旅行3日目。

ボロ旅館を出て萩に移動。Kの行くところに城、もしくは城跡あり。KとHが御城印(お城版の御朱印)を買い求めている間に立て札やポスターを眺めていると、いらすとやの絵のついたトンビ注意ポスターを見つけた。以後、荻にいるあいだじゅうトンビが上空にいた気がする。荻城は料金を支払った後の有料部分に公園が広がっているので閑静。いくらも歩かないうちに海岸に出るのが瀬戸内の城の素晴らしいところ。初日から様々なポイントから海を眺めているが、瀬戸内海はどこから見ても青い。この後萩のはずれまで歩いていったのは珍しい設計の短くて古い橋を見るためだったか。川にはカモのように野生のウミウがいた。観光スポットの土塀がありながら人通りもまばらな住宅街にさしかかった時、住人らしき女性が前から歩いてきてすれ違いざまに「いらっしゃいませ」と声をかけてきた。なんだか感動して「はーい」とトンチンカンな反応をしてしまい、他の3人は何も言わなかったがやはり衝撃を受けていたのだと思う。口羽家住宅にいたボランティアガイドの女性の語りも心に残っている。「このあたり、ずいぶん静かで驚かれたんじゃないでしょうか…でもこのゴールデンウィークに行ってみたい観光地ランキング、というのがテレビでやってたんですけど萩は何位だと思われますか?何と4位だったんですよ」「一週間くらい前は夏みかんの花のいい香りが家の中に入ってきてたんですよ。本当にいい香りでね。ほんの数日のことでしたけれども」「夏みかんはジュースにします。バナナを半分くらい入れてミキサーにかけてね。さっぱりしてとてもおいしいです。」この人は井上真央のことを「真央ちゃん」と言っていた。大河ドラマの撮影にも使われたお屋敷。ではあるが、口羽氏の考えにより装飾は少なく簡素。人や動物があしらわれて欄間が絵巻のようになっていたハワイ移民資料館とは対照的に、柵のようになっているだけだった。庭には色とりどりの花が咲いていて、川の水面がキラキラして天国のようなところだった。樹齢数百年の橡の木が2本あって、手前が300年で奥が400年という話だったが、庭の手入れをしている男性にHが聞いたら逆だった。

昼食は萩のメインストリートの町家カフェでとった。制服姿の高校生など県内のお客も多くいた。近くの席で小さな同窓会を開いている同世代の女性3人組がいて、久々の再会を喜んでいる。山口の人なのだろうと思うが話し言葉の特徴が掴みきれない。なんともいえず優しげな印象だけがある。注文したカレーには夏みかんジュースがついていてお得。スプーンのすすむ味だった。ジンジャエールも自家製だったし、ケーキもおいしそうだったし、やきものや衣服などハンドメイドの商品の取り扱いもあっていいお店だった。萩焼の小鉢(800円)を買うか迷ってやめた。通りには「萩焼まつり」ののぼりが立っていて、手頃な値段でたくさん売られていた。

秋吉台に移動してカルスト台地を散策。「ウバーレって覚えてる?」とH。全く覚えていないが、習った前提で話しかけてくるので逃げ場がない。「地学を選択していない」「センター試験で使っていない」と目を泳がせる3人。あたりは大きな岩だらけで荒涼としているが、小鳥がさかんに鳴き交わしているのが意外。こういうのは実際に来ないとわからないことだ。1時間ほど散策して展望台の下についたところでチェックのネルシャツを着たおじさんに話しかけられる。「どこから歩いて来られましたか?この道を行ったらどこに出るのかわからなくて」。私にもまったくわからない。そういえば案内板がなく、途中でTが何度かグーグルマップを見てくれていた。Hが「台地の中で分岐してますけどあっちに抜けられますよ」と答えて別れた。展望台に登って見下ろすとさっきのおじさんのチェックシャツが目に入り、まだ同じ場所で逡巡していて面白かった。何分後に抜けられるかをスマホで割りだそうとしている。連れもいないので適当なところで切り上げたい気持ちはすごくわかる。おじさんの旅路に幸あれ。

その後、元乃隅神社というところへ行く。駐車場のだいぶ手前から渋滞していた。鳥居がいっぱい並ぶ、インスタ映えスポットでもあるらしい。「私駐車場に入れとくから3人で先降りて見てきていいよ」とTが父親みたいなことを言う。車の窓から道路沿いの野草の写真を撮った。車内ではKのスポティファイのリストの音源が流れていて、曲が変わる度に「これは?」とT。この流れを作り出してくれたのがよかった。アニメ主題歌のリストであることと、Kがアニメをたくさん見ていることがわかった。知らなかった一面だ。「これは?」の定型文がないと曲について切り出せなかったのはなぜなんだろう。知らないことを尋ねられない性格と、走行中の車内では他に相談しないといけないことがあるからか。道筋、駐車場、次の目的地など。40分くらいして到着。鳥居をくぐった先に切り立った崖があり、HとTが駆けていった。4人で来られてよかったねとKと言い合う。一緒に駆けていったはずなのに全く違う方向から戻ってくる。Tが「無理だと思ってついていくのやめたけど、どっからどう来たの?」とHと答え合わせ。Hが指指す先には打ち寄せる波と断崖絶壁しか見えず3人で震えた。インスタ映えスポットの裏でひとり、淡々とクライミングをするH。すべては景観を目に焼き付けるために。

スーパーで買い出しをし、宿にチェックイン。トレーラーハウスを借りてバーベキューをした。トレーラーハウスの使用開始時間が迫っており、正直忙しかった。もともと外でやることになっていて、雨予報が出た時点でHが宿に電話するとトレーラーハウスが借りられることになった。しかしチェックイン直前に、ギリギリ外でできるかもしれないからとまたHが電話。いつ降ってくるかわからないし、風も強いしどうしようか。オーナーに「僕ならやめておきます」と言われてトレーラーハウスに。ゆくゆくは有料で貸し出す構想があり、今回特別に追加料金なし。やり手のオーナーのアグレッシブな話しぶりにやや疲弊するH。到着してみるとトレーラーハウスの隣にサウナハウスがあり、男性数人が何やら設営をしていた。食後に見たらこの人たちがサウナに入っていたので、うまいこと言って連れてこられたモニターなのかもしれない。バーベキューで私はわざわざいわしの削り節とポン酢、こんにゃくと厚揚げを買って焼いて食べるという大人げないことをした。旅行中にするほどのことではない。TとKがおいしいおいしいとたくさん食べてくれたのが救いだった。余ったポン酢と削り節はもらった。いわしの削り節は「鱗」のラーメンにのってるよ、と言ったらHが、何回も食べてるのに知らなかったです…すいませんと謝ってくる。いや、こんなところについてこなくてもいい。

風呂上がりに電池切れで寝ていると、Tが「もう起きてこないんじゃない?」と私のことを言っているのが聞こえてくる。これで起きあがれた。これがなかったら朝まで寝ていただろう。光圀本店で買った夏みかんの丸漬けを切り分けて食べた。

5/6(土)

昨日寄ったスーパーでご当地パンを買い込んでおり、朝食にパン祭りをした。四等分してはオーブントースターで温めて食卓に出す。食べる。また四等分してオーブントースターに入れる。チーン。食卓に出す。食べる。あ~、超楽しい。サンマルクみたいと思って口に出して言った。松月堂(山口)とリョーユーパン(福岡)。見たまんまの味のパンが、見慣れないパッケージの袋に入っているのが楽しくて仕方がない。「お菓子でも何でも会社名と一緒に把握してるのすごいですね」とK。勝手に盛り上がらせてくれてありがたい。

宿を出るころについに雨が降り出した。角島の絶景は傘をさして眺めた。足下にはカタツムリ。それでも海が青いのがすごいと言い合った。昼食はごぼう麺。秋芳洞名物らしい。麺もごぼう、トッピングも揚げたごぼうで香り高く、なおかつ油と塩のジャンキーな味わいもある。他の3人は瓦そばを食べていた。絶対こっちの方がおいしいと思いながら食べた。瓦そばを食べたことはないのに。れんこん好きでありごぼう好きである自分を意識する山口旅行となっている。

秋芳洞の中の滝(水が枯れているのに音がするから幽霊滝)や岩(岩窟王)の名付けが気に入ったのに、立ち止まることも話すことも難しいくらい混雑していて元気がなくなる。早く出たすぎて一人で先に洞窟から出た。Hに「飽きちゃいました?」と言われてうろたえる。人酔いして元気がなくなったことにしておきたかったのに、飽きていたのを見透かされた?「いや、寒かった」とよくわからない嘘をついた。裸足にビーサンで何を言っているのか。でも靴が濡れるのがどうしても嫌でわざわざビーサンを持参しているのだった。

下関の水族館は海響館といって、エントランスにグランドピアノがあるのはネーミングと関係あるのかどうか。繁殖賞日本動物園水族館協会)のボードがずらっと飾ってあり、端から全部見たいがそういう感じでもない。何より人が多い。どしゃぶりでみんな行くところがない。ここでも「まあいいやせっかく寄ってもらったし集中して見よう」の精神で見る。フグの展示はさすがに充実していた。目や口が大きいとなんとなく表情らしきものが読みとれ(るような気になって)、愛嬌があってかわいい。さかなクンが頭にかぶるのもわかる。フグの中でもモンガラカワハギ科の魚が気に入った。アカモンガラの水槽には、5センチくらいの小さな魚がヒラヒラと群れなしていた。光を吸収する黒色の身体。Kに「なんか不気味ですね」と言われてしまう顔。受け口で赤い歯が出ている。人魚姫に出てくる魔女に仕えていそうな迫力がある。こいつ好きだなーと思ってもその場では黙っていて、こうして後で日記に書いている。グループ旅行中の自分、自分そのものだ。時間と人波と戦っていたのでちらっと様子を見ただけだったイルカショーについてメモ。アシカとの共演が特色らしいが、それ以上に飼育員の女性3人が3人ともcv田中真弓というような世界観が印象に残った。先輩後輩関係があり、観客のキッズに対しては「応援してくれよな!」という感じ。イルカショーをうっちゃって見たペンギン、屋内(亜南極ゾーン)では海鳥のアジサシが同居。屋外(ペンギン保護区という体でフンボルトペンギンを展示)のプールには期待どおりの激しい波が。雨の中、波にさらわれるペンギンの姿を目に焼き付けるべく凝視。晴れた日に来たかった。岩間に、私の様子を見に戻ってきたTの顔が見える。ミュージアムショップで手短に買い物。閉店間際のレジスタッフは全員憔悴しきった表情だった。ゴールデンウィークの雨の一日、本当に長かったんだろうな。

旅を充実させるためなら事前準備も手間もおしまず、滞在時間中に詰められるだけ予定を詰めるHに連れられ17時過ぎに唐戸市場で寿司を食べ、その後火の山砲台跡にも行った。霧の立ちこめる中、傘をさして砲台跡まで歩いている時、ふと我にかえったように「・・・・・・みんな興味あります?」とH。孤独な気分にさせて申し訳なかった。あーやっぱりちょっと寒いなと思っていると「そのために車から持ってきたんで」と上着を貸してくれた。そのmizunoのフリースのふんわりした暖かさ。

下関の駅前のイタリアンのお店で夕食をとった。生中で乾杯したあと開口一番「いやー、去年も楽しかったけど、去年の3分の4倍…より充実してましたね」と感無量のH。まったく理解できないでいるとTが「去年の旅行が3日間で今年が4日間」と補足してくれる。「私も一瞬意味わからなかったんですよねー」とフォローしてくれるK。宴は進み、2杯目を頼もうとワインメニューに手を伸ばすとレーダーチャートがついていて「甘さ」「辛さ」「エレガント感」などが数値化されている。「エレガント感って何?」「相関性はあるのか?」とH。「レーダーチャートは使いどころを見極めないとよけいにわかりづらくなる」「(私とKの、相関性って何やっけ?に対し)甘さが増えたら辛さが減るとかってこと」と淡々と交通整理をするTだった。この会話であれがレーダーチャートであること、相関性がある指標で作成するものだということを知った。

帰りの新幹線で「持って帰っちゃったら読まないから」「作業(笑)」と隣のTに言いながらフライヤーやパンフレットの束を必死で読む。各施設のパンフレット、YCAMの機関誌、チラシ、海響館の機関誌など。朝刊一日分くらいはあった。新大阪で新幹線を降りて電車に乗り、環状線に乗り換えて車内から京橋駅前のネオンを見たときに「帰ってきたな」と思ってTにそう言った。まだ一緒なのだった。「今回、花の写真をいっぱい撮ってましたね。よければLINEのアルバムにあげといてくださいよ」と言いながら降りていった。

5/7(日)

ラジオも電灯もつけっぱなしで寝ていた。まだ6時台。旅行から帰ってきた翌朝でも、昼まで眠れる年齢ではなくなっていることを実感。疲れが残っている感じはしないのでよしとする。ラジオからはNHKFM「twilight Club DJ MIX」が流れている。起きあがってコーヒーをいれて飲んで洗濯をした。やった!洗濯できた!

3月下旬にLINEのグループチャットで旅程を組んでいる時、GW最終日の演奏会に旅先から直接向かうか、1日前に帰宅するかでKが「帰って1回洗濯機回したいです…!」と発言していたことが思い出される。率直で実感がこもっていて、なおかつ角が立たない。なんてうまい言い方だ。というより、自分の意志を適切なタイミングで伝えられるのがKのすばらしいところ。旅行中もそれに助けられたり、こうなりたいと心のメモに書いたりした。車に酔う体質であると申告しておく。足元の悪いところには行かず「私ここでやめときます」。

雨降りのため普段は使わない浴室乾燥機を駆使して干す。その後昨日の朝の残りのご当地パン「ポービリア」と光圀本店の夏みかん丸漬けを食べる。そして日記を反省文にしなくてもよい、日記の中で反省しなくてもよい、と言い聞かせながらポメラを開いて日記を書く。

14時でも19時でもなく16時開演の演奏会に足を運ぶのは初めてかもしれない。昼食を食べ損ね、15時25分くらいに西宮北口駅に着いて阪急ベーカリーカフェに入ってコーヒー、ほうれん草とくんちゃまベーコンとチーズのピザパン、練乳パンをわしわし食べた。ガラス越しに駅前を行き交う人々を眺めていると、店内に掲げてあるドリンクメニューの「コーヒーフロート」の文字が目に入った。アイスクリーム部分はソフトクリームなのか。マシンを探す。よくわからない。ソフトクリームのポスターが貼ってあるのを見つけたので、きっとそうだろう。覚えておこう。

演奏会のプログラムを開くと「アマチュア音楽は音楽の本道である」と書かれた芥川也寸志の色紙の写真。そして故人である名誉団長のプロフィールが掲載されている。芥川也寸志音楽監督として呼んできた人らしい。演奏を聴く前から圧倒された。演奏も圧巻だった。アマチュアオーケストラをことさら持ち上げる指揮者、音楽関係者に対して、誰のためのリップサービスなのかとか、普段どういう仕事をしていたらアマオケに夢を見ることができるのかと訝しく思っている。しかし、もう少し前向きに考えるよすがになりそうな体験だった。

終演後、昨日と同じ4人でエビスのビアバーへ行った。ここでもメニューに各ビールのレーダーチャート(以下略)。私が「旅行中、車内から道路脇の雑木林にサルが入っていくの見たのどこやっけ?私はサルが好きやから。日記に書かなあかんから」*1と発言すると「日記をその日に書かない(で覚えていないから人に聞く)・・・?」とHが怪訝そうにしていた。その感覚は固定観念によるものなのか、日記書きとしての実感なのか。前者と決めてかかって流した。これは聞いてみたらよかったな。そうしている間にTが「私が運転してて、Kが後部座席にいたから2日目じゃない。雨は降ってなかったから4日目でもない。3日目の宿の前に行ったスーパーの近く。」と導き出していた。どんな課題もすぐに解決。ここまで鮮やかだと機械的ですらある。

5/8(月)

5時半起床。今年度が始まる前くらいからずっとそう。
にんにくエッグ

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とだけ書き残されていて今日は27日。にんにくエッグって何、と入力したところで思い出した。カルディの青いにんにくラー油でつくった炒り卵が昼の弁当のおかずだった。部長が高知のおみやげにミレーのビスケットと芋けんぴをくれた。どちらもやなせたかしのイラストがついている。もらったそばからミレーのビスケット、高知なんですね!と口々に言う。私も高知に行くまで知らなかった。

海、というのはNHKFM「ベストオブクラシック」で流れたドビュッシーの曲。ゴールデンウィークの間じゅう瀬戸内海を眺め続けたことによるのか、今けっこう好きかも、と山口旅行をともにした友人達にLINEした。

5/9(火)

朝食、くるみ食パントースト。昼食の弁当のおかずは鮭となすの炒め物。夕食、麻婆丼

通勤電車の中では生活綴方の文集「バイト」、『中くらいの友だち』の8号を読んでいた。
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Hが疑問を抱いた通り、後日覚えていなければ日記の書きようがないが、20日近く経ってなお覚えていることが何なのかわかるという点は面白い。

職場にて、私服勤務といえども清潔感がなかったりお客様を威圧するような格好をしてはいけない、品位を保つようにというメールが全社員に発信された。言葉選びが過激な割に具体的な内容の伴わないクソみたいなメールだなと不愉快に思った。詳細が気になったが、見なかったことにしてやりたい。見なかったことにする。重役が「あれはちょっとね」とでも言ったのだろう。本人に指導はせず、これでやったことになっている。

5/10(水)

朝食、くるみ食パントースト(チーズ)、昼食の弁当はぶっかけうどん。夕食、枝豆豆腐、ミックスナッツ、砂肝ポン酢。
通勤電車の中では『人と動物の人類学』を読んでいた。

今週は定時に上がれている。日があるうちに職場を出て、最寄り駅についてもまだ明るい。電車からホームに降り立つと栗の花の香りに包まれる。毎年、誰がこんなに植えたのかといぶかしいくらいの強い香りだがどこで咲いているかはわからない。連休前まで、開花、満開、そして散っていくのを眺めていたツツジの花がもうほとんどついていないことに今日になって気づく。帰宅。早く帰れても風呂に入って夕食をつくって食べるという流れを取り戻せていない。風呂の前か後に横になってしまう。
オルガン
バカレア
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NHKFM「ベストオブクラシック」がオルガニストのリサイタルで、ラッキー、みたいなことだろうか。バカレアは10年ほど前にAKBのメンバーが出演していたドラマタイトルの略称で、ジャニーズジュニア時代のストーンズが出演している。ストーンズはアラサーの今の姿しか知らず、AKB(島崎遙や大場美奈)は20歳前後の姿で印象が止まっている。書き出すと当たり前のことだが、関連画像を見るとその度に時空のはざまに入りこんだような不思議な感覚になる。

5/11(木)

朝食、くるみ食パントースト。昼食の弁当のおかずはブロッコリー、いわし削り節、パプリカとなすとヤングコーンの炒め物。味噌とゴマの味。夕食、納豆卵かけご飯。

通勤電車の中では『ナン香るイランから』を読んでいた。

ハルジオン
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朝駅まで向かう道の脇にハルジオンが咲いていて、この数日は毎朝頭の中でバンプオブチキンの「ハルジオン」が流れていた。Bメロの「色あせて」の「い」、「記憶の中」の「き」が4拍目なのがおしゃれだし、サビで「る」で韻を踏んでいるから「揺るぎない信念だろう」の「ろ」が「る」寄りなのだなあとわかったりした。聴き返したら全然違うかもしれない。

ハルジオン

ハルジオンのCDジャケットはハルジオンの花の写真じゃなくてハルジオンの咲いているような道路だ。持っていたのに今まで忘れていた。

*1:この発言によく現れているが、自分を自分でなぞって生活している。日記は書かなあかんし、焼きそばは削り節をかけなあかんし、コーヒーフロートのアイス部分はソフトクリームじゃないと嫌。一応自分の好みの領域にとどめてはいるが…。バーベキューで焼きそばをした時、Kが普段天かすをかけていると言うので嬉しくなって「鰹節も青のりもアホほどかけたいし天かすとか小エビもないと嫌や」と言ってしまってTに「じゃあ今天かすも小エビもなくてやだなーと思って食べてるんですか」と返されたことを書いておく。Tは笑ってくれていたけれども。