私のなら国際映画祭2024

情報公開が遅いのは毎度のことながら、待ちに待ったプログラム発表第一報が邦題だけだったため作品特定大会に。とうとう今年は一部の映画ファン内で全国的に有名になってしまったなら国際映画祭へ。

ベルリン国際映画祭がオフィシャルパートナーで、カンヌ国際映画祭とパートナーシップを結んでいる(パンフレットより。微妙に表現が違う)。プログラムが充実しているのはこのためか。特に印象に残った作品の感想です。

 

「エルボー」アスリ・オザルサン監督

ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門推薦作品

 

ドイツに暮らすトルコ移民のバザル。高校卒業後の就職が決まらない。バイト先は実家のパン屋。ひっきりなしに吸うタバコは紙。化粧品を万引きしてバックヤードで逆ギレ。聞こえよがしに陰口をたたく女とは2対2でやりあって勝利!「買えない喧嘩は売るなよ!」と逃げる背中に浴びせかける。食べていたスイカにさしてあったクリアイエローのピックが口元でカチャカチャ光る。誕生日はクラブで踊り明か…せず友人と喧嘩。怒りを地下鉄のホームで執拗にナンパしてきた男に向けて爆発させる友人。男がやり返してくるので戸惑いながらもリンチに加わってしまう。倒れた男の腹を蹴っては友人と顔を見合わせる。陰惨なエネルギーで、濃いまつ毛とメイクに彩られた大きな瞳がらんらんと輝く。すごいシーンだった。動かなくなったから逃げるんだけど、逃亡先のアムステルダムのネカフェでそいつが死んだ事を知る。惨状が映らなかったから夢オチかと思ったが違った。移民が罪を犯した後どうなるか。IDカードは折ってトイレへ流すけど、実家からくすねたお金は最後までずっとパン屋のロゴ入りの袋で管理されている。

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サブ会場のバスターミナルから奈良女子大学近くのカレー屋「琥珀荘」へ。土砂降りだった。

副菜が別皿で出てきてキリッとした味がする。

手書きのポップというか、字に囲まれて嬉しい。「クルフィでおます」と語りかけてきたので頼みたかったが売り切れ。パイナップルサワーにした。

メイン会場へ移動。ならまちセンターのゆでたまごゆでたまごではないことを前日に知った。蓮の花がモチーフらしい。

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「催眠」アーネスト・デ・ギア監督

インターナショナルコンペティション作品

 

驚きの展開と劇伴の評判を識者のツイートで知って、観ることに決めていた作品。これで大満足してコンペ作品を一本にとどめたところもある。

実家で母親に「あんたは(また)牛乳?」と聞かれ「ワインでいい」と断るヴィラ。今までに何度もその事でからかわれたのだろう、憂鬱そうな面持ち。「あんなに好んで飲んでいた牛乳を?!」と観客が思うタイミングで、「あんなに好んで飲んでいた牛乳を?!」という顔をして同じように驚いているアンドレ。ヴィラの予測不能の行動による突拍子もない展開を映し出すスクリーンと客席を、アンドレの思案顔がここまでつなぎとめてきた。そこからトイレに行って心を決め、あそこまでやり切るのはさすが主人公のひとり。リビングのルーターに放尿しているところを見せつけられて涙が出るとは。どうしてこんなにグッとくるのかと考えていて思い出したのが、社会的地位を振り捨てて恋人を守るシーンの原体験。夏休みドラマのキッズ・ウォーだった。一平(浅利陽介)が茜(井上真央)の危機を救うため学校中をストリーキング。トランクス一丁で職員室の机の上を駆け抜ける姿を忘れない。10年後の8月どころか20年経っているけれども。

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ならまちセンターの近くにはヒダカナオトさんのギャラリーがあります。どんどん新しいグッズを出し続けておられるのではないか。すごい。

コーヒー休憩したかったがお店に入りそびれ、缶コーヒーと手持ちのお菓子(ミルクケーキなど)をならまちセンターのロビーのベンチで食べる。

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「よく見れば星」森美春監督

学生映画コンペティション作品

 

ピタゴラスイッチがはさまる昼ドラ。明かりがともるマンションの一室にジオラマ作家が住んでいて、やはり集合住宅のジオラマに明かりをともしている。ゴミ出し時に出会ったラジコン少年のラジコンの運転席にジオラマ用の人形。人形を返してもらおうと少年の父親のところへ行ってみると、車の運転席に座っている。映像のしりとりが楽しい。

 

ジェンガをする夫婦(しらふでそんなことするかな?)。「今揺らしたでしょう(笑)?」ラジコン少年宅のダイニングの床に広がる見事な規模のプラレール。カメラは車体にセットされている。父母の「あれ、今揺れた?」ジオラマ作家小夜子(この人が最も呼びかけられるので名前を覚えた)が桟橋の手すりに上半身をあずけている。小夜子の立っている橋が揺れているように見えるが、揺れているのはすぐそばに停泊している船。繰り返される揺らぎ。

 

映像の新鮮さと、メロドラマで見たことのあるような登場人物の既視感がちぐはぐで面白かった。ミステリアスな元カノ小夜子との不倫に溺れる夫。小夜子の個展に金槌を持ち込む妻。振り下ろす妄想で終わる。そのまま姿を消そうとするが、夜中に河川敷で夫に捕まる。もみ合いになり、目を抑えてうずくまる夫。一瞬さっきの金槌が映った気がしたが、血も流さず朝日に向かって「俺たちもうダメかもしんない」などとほざいているので夫にも振り下ろせなかったということか。こんな(につまらない)男とこれからも一緒に暮らし続けるという「もっとバッドエンド」を示すために、夫婦の家でのラストシーンとなったという。監督のアフタートークが聞けてよかった。今月は抑圧をはねのけてスクリーン上を縦横無尽に暴れまわる女性が出てくる作品を立て続けに観たが、マンションがひとつあれば確実にあのようなわかりあえなさと地獄の日々があるだろう。