火鍋と指輪

職場の男性社員の左手薬指に指輪が光っている。先週まではなかったと思う。見ていないようで見ていて、指輪があるとそれが印象に残り、既婚かどうかを判断しているということがわかった。判断してどうするのか。意識的にあらゆるジャッジを手放そうとしている自分ですらそうなのか。もし自分が誰かと結婚するとしたら。判断材料を身につけることなくはぐらかし続けたい。

先日Mと行った火鍋屋に、職場のNさんが友人5人で予約を入れたらしい。店を海底撈に決める前に「おいしい火鍋屋ご存知ですか?」「いや〜、友達も辛いのダメやからなかなかね、行かへんね」「鍋ですしね」「誰とでもって訳にはね」という会話をしていたので海底撈での顛末を話すと、そういう運びになった。「営業時間29時までって書いてるんですよ」「キンキラキンの回転寿司屋みたいな内装なんですよ」「ドリンクバーみたいなところでタレを調合します」「四角い鍋を4つまで仕切れて、スープが3種類でいいときは0円のお湯にします。辛くないスープも何種類もありますよ」。ニコニコ聞いてくれるけど、「心斎橋でしょ、人多いから行くだけで疲れる」。だったのが、変面ショーの話をすると一気に前のめりに。京劇に出てくるような格好の人が通路を練り歩いて変面してみせてくれるのだ。Nさんの友人も全く同じ心変わりをしたようで、「予約が13時。ホームページの変面ショー開始時間と同じ。45分にしたほうがいい」とか、「店に電話したら13時半かららしい」と発言、行動し始めたという。「最初火鍋って言った時は全然乗り気じゃなかったのに」「勝手にせえ、と思ってLINE放置してたら勝手に解決した(笑)」とNさん。恐るべき変面ショーの集客効果。

5人、というのが凄い。普段から集まって食事などしているのだろうか。自分がNさんの年齢になって、友人5人で食事に出かけられるだろうか。今ですら厳しい。という話を彼氏にすると、Nさんは結婚しているのかと聞いてくる。知らない。この話には関係ないはずなのに。どういう感じの人か掴みたいのだろうという彼氏の気持ちはわかる。私が話の中にNさんの人柄を表すような情報を盛り込めればこんな質問はさせなくて済むだろう。自他問わず近況の説明もへたくそ。もう1年以上前だが、職場を去った人のことを「でも結婚されたらしいですよ」と言ってしまったことを今でもなかったことにできないかと思っている。なんだか心配そうな聞き手を安心させようと焦った結果。何が「でも」なのか。