202405某日

路面からすぐに地下に降りる階段が伸びているのが見えるのは梅田ハードレインで、扇町パラダイスはそうではない。腰くらいの高さの立て看板には「チェルシーホテル」の華奢でおしゃれな書き文字が踊っている。青白い蛍光灯に照らされた通路には見覚えがなく、こんなマンションの廊下のようなところへ入っていっていいのだろうか。おそるおそる進むとようやく、階段が見えてきた。あった…!とつぶやくと何段か下ったところに腰掛けている受付担当のスタッフが膝の予約者名簿のバインダーの上にいじっていたスマホを伏せて置くのが見えた。そうだった、ここに人がいるんだった。細くて狭いのに数段で180度折り返すようになっていて踊り場すらない、三角形の段にすぽんと収まってこちらを見上げてくる。目線を合わせようとしゃがむ。こんな暗がりで初対面の人と身を寄せ合ってやりとりするなんて妙な気持ちだ。お目当ての方はおられますか?に黒岩さんですと答え、ワンドリンクこちらでおうかがいしています。にハイボールと答える。顔のすぐそばに迫る壁にはドリンクメニューが貼られ、そのためにあつらえたような段差には小さな金庫やベビースターラーメン等のスナックの籠が置かれている。やりとりを終え、スタッフがスッと膝の位置をずらすとまた階段が現れた。あと数段降りるともう防音扉で、その向こうはフロア。地下の淀んだ、色々な匂いの混じった空気に包まれたが、すごく高揚していた。入ってすぐの隅にドリンク場があって「ハイボール」と書き込まれた紙片を渡すとプラコップでつくってくれる。ライブ中でもこれならスムーズに伝達できる。ふと見ると「ピュアの水」が。激安自販機の水の銘柄がこれのことがある。たまに買う。シビアな原価計算を思った。ウイスキーの銘柄は見ていなかったがこのハイボールがとてもおいしかった。演者も照明も見事。また来たい!しかし紙タバコを吸う人と隣り合うのが久々過ぎて煙が目に染みた。空調の加減かどんどん目に入ってきて涙が出続ける。

帰って魚住英里奈さんの動画を見ながらZINEの製本をした。今日は事情により降板されたのだが、なんと説得力のある歌、そしてギター。またぜひライブで見たい。今日の演者それぞれのステージにもあった、ギターとの親密な関係を見せつけられるような、他人には入っていけないような時空間。私も楽器を演奏するからにはこれを出現させたい!

あまり調子がよくなかったのか曲間のMCが震える右手をグーパーしながらの「やばい…」だった人がなんだか気になってきて何本か動画を見る。前髪重めの黒髪がグレイヘアのセンター分けになるまで。ギターケースのチャックが壊れてガムテープまみれになるまで。ライブを続けてこられた年月を思った。寝る支度をしているといつの間にかギター一本のインスト曲になっていて、違うチャンネルの動画が再生されているのかと思ったがチャンネルはそのまま。スタジオに入ってクロノトリガーの曲を熱心にさらっておられるところだった。