20231228

スタンディングオベーションしよう、という明確な意思をもって立ち上がることができた。本編中、2階席の最後列に座っていると投光室から1000席以上ある客席の上を通過してスポットライトが長い長いまっすぐな線になって俳優へ向かっていくのが見えた。今日で営業を終了するメルパルクホール。設備はそれほど新しくないと思われる。ステージの床が川の水面になり、暗幕には星空が広がり、場面に沿った適切な舞台効果が涙を誘った。美しければ美しいほどジョバンニの孤独が際立つ。主人公が慟哭する場面でこんなに悲しい気持ちになったことはない。

18時すぎにホールへ到着すると、開場が少し遅れていてチケットを持った人がたくさんいた。差し入れの紙袋を持っている人も多い。当日券は買えるのだろうか。ほどなくして開場。出遅れたにもかかわらず並ばずに当日券を購入できたのは、入口扉もチケットブースも公道から狭い階段をのぼった先にしかないからだった。ロビーで人波をかきわけて自販機のほうへ向かうと、もう視界から人がいなくなった。始めて来る劇場だが、ひとりになれる場所をすぐ見つけられる構造に親しみを感じた。古いホールにはこういったおおらかさがある。先日終了したさいたま国際芸術祭のメイン会場も閉館した市民会館だった。日本全国で昭和に建てられたホールの建て替えが進んでいくが、アンテナを張っていればこうしたお別れイベントや公演が見られるかもしれないのか。

山尾企画の公演を最初に見たのは10年ほど前。会場はさまざま。古民家ギャラリー、小劇場。私は見ていないが電車や軽トラ、ビルの屋上でも。キャストもスタッフも少しづつ入れ替わっているだろう。今回は最大規模の公演で、主要キャストはオーディションをしたり商業演劇で活躍する人を迎えたりもしたという。これだけ規模が違っても、古民家ギャラリーで観た(そういえば私がタピオカミルクティーを始めて飲んだのはこの時だった。ワンドリンク制だったのかな?)後の「なんか好きだったからまた来よう」と同じ感覚を刺激されている。