20240307

職場でも、出先でも夕方に休憩をとれないと調子が狂うことがわかった。繁忙期でもないのに疲れすぎだ。コンサートに行くのはやめにして帰ろうか。そう考えていると自宅までの路線が人身事故で止まっているというアナウンスが耳に入ってきた。大阪城公園駅で降りていずみホールへ。チケットブースの前でちょっと立ち止まるだけでも冷たい風が真横から吹き付ける。ガラス越しに赤いジャケットを着たスタッフが発券業務にあたっているのが見える。今すぐこのブースの中に入れてほしいと思うくらいの寒さで、予約窓口に人がいないタイミングで当日券対応をしてくれた機転や、全然待っていないのに大変お待たせしましたという声掛けが身にしみた。受け渡し口から手を差し入れて一万円札が飛ばないように指でとり押さえた。引き換えにトレーの上に置かれたチケットと釣り札が出てきて、細長い文鎮の下でパタパタした。

 

いずみホールはバブル期に建てられたホールで、パイプオルガンがあることや豪奢な内装からもそれが見て取れる。お腹が空いて力が出ないのでバーコーナーで軽食をとることにした。コーヒー400円、ロールケーキ200円。何の変哲もないものだったが、ふかふかの一人がけソファに座って夢中で食べた。コーヒーの温かさとクリームの甘さが身体中に広がった。外套を羽織った和服の男性。グラスワイン片手にプログラムに目を通す人。ハイボールを次々にあけながらサンドイッチをつまむスーツ姿の男性二人連れ。バーコーナーは開演前の静かな高揚感に満ちていた。

 

今日のコンサートはピアニスト小菅優企画のシリーズの第一回。祈りがテーマ。メイン曲はメシアン「時の終わりのための四重奏曲」。ドイツ軍捕虜だったメシアンが収容所で演奏するために作曲。演奏会当日はメシアンがピアノを担当。クラリネットもバイオリンもチェロも捕虜。収容所内で偶然居合わせた音楽家によって決まった編成なのだ。そういった条件があったとは思えないほど、高い演奏技術や深い楽曲の理解が求められそうな曲だった。ステージの奏者の演奏が魅力的であればあるほど、捕虜の姿がダブって見えてくる。

 

メイン曲以外にもウィメンズアクションネットワークの記事で読んで気になっていたリリ・ブーランジェの楽曲が取り上げられていたり、小菅優がサプライズのような形でオルガンを演奏したりとアイデアに溢れていた。これはいいものを見たと誰もが思ったはずなのだが、客席は集中力を欠いていた。休憩時間に「先生」と呼びかけられている男性がいて知り合いに囲まれていて、「血液内科のホープ」が離れた席から挨拶に来たりするほどだったのだがこの先生が演奏中にチラシの束を触ってパリパリカサカサ音をたてていて嫌だった。なぜ一番繊細なところで音がするのかというと、組曲の中で次の曲が始まる度にチラシの束の中からパンフレットを取り出して開いて曲目解説で表題を確認しようとするからだった。QRコードでパンフレットを配布する形式の演奏会の完全な静寂が本当に恋しかった。いずみホールはプラスチック廃止の一環で独自の紙のホルダーにチラシを入れて客に渡していて、このホルダーの扱いにコツがいるんじゃないかとも思った。持ち手の切り込みが入っていて音が出やすい。