20240329 金曜夜の散歩

「お茶でもしといてくれたら」とLINEが来ているが、駅前のホテルの外のベンチに座って待つことにした。それくらい寒くない。昨日はそうではなかった。スマホで「なにを着て生きていくか」と題した日記を書く。やがて彼氏がやってくる。私の後ろにあるホテルの一室を見上げて「シェフいる」と言う。3階のパーティー会場の窓際にコック帽を被った後ろ頭が見えている。手元に目線を落としたりせず顔を上げているようだ。なぜキッチンではなくパーティー会場の端にいて、手持ち無沙汰なのだろう。他の人の頭もテーブルも見えず、なんとなく賑々しい感じだけが漂っている。バイキング会場でオムレツを焼く担当の人を建物の外から捉えると、ちょうどあんな感じに見えるのではないだろうか。

 

夕食は赤から鍋。何年も前に一度食べたきりで久々だった。金曜の夜のこのあたりの飲食店で、既にある程度親しい仲であろうというグループが多いのも珍しい。チェーン店の気安さか。辛い鍋料理を共につつける仲というのも限られてくるだろう。やかましいが浮足立ってはいない。それだけでこんなに過ごしやすい雰囲気になるものかと思った。店で鍋料理を食べるとふんだんにつゆを入れられるので最後まで味が濃い。店員が通りかかる度にさりげなく鍋の中を覗いては「火を弱めさせていただきます」「よろしければつゆを足させていただきたいのですが」とつゆの心配をしてくれた。チーズリゾットを頼むとご飯とチーズと取皿を運んできて、「お作りしてよろしいでしょうか」と尋ねて火をつけて去った。つゆが沸騰してもなかなか戻ってこない。「地獄」「マグマみたいなってる」と彼氏。シメのつゆの濃さとは思えない。さっきとは違う店員が戻ってきてご飯を投入し、余分なつゆを丁寧にすくっていく。ご飯粒がおたまに入るとやり直し。チーズを入れてパセリをふり、しかし全体的には真っ赤なおじやが出来上がった。食べながら「初心者マークついてた」と彼氏。よく見ている。注文を受けた店員がリゾット実習のために派遣したのかもしれない。マニュアル通りの出来だと思われるが、とても濃かった。パセリではとても風味付けできない。卵がついてくる雑炊セットにすればよかったか。

 

赤からを出て散歩。橋を渡って中之島へ。大阪市役所は蛍光灯で煌々と光っていて、職員がまだまだ残業をしているのが伺えた。周囲に民家がないからか大音量でチャイムが鳴り響くが、もう22時だ。中之島公園内のあちこちに立ち話をしている人達がいる。ちら、と腕時計に目をやり、私達が橋を渡り終えるのを待ってカメラを構える人もいた。振り返ると色とりどりの明かりの向こうに中央公会堂が見えて幻想的な雰囲気だった。

 

大川沿いの公園のそばにはタクシーがずらっと停まり、運転手が何人もせわしなくトイレに出入りしていた。空車表示と回送表示が半々くらい。今は休憩して、電車が終わるころに駅前へ出動するのかもしれない。大木の下にビニールシートを敷いて酒盛りする人達。10人くらいで身を寄せ合って三角座りしている。同じようなグループが3つもあった。桜の木なのかもしれないが、花が咲くまでにはまだ日がありそうに見える。まさか場所取りか?

 

ビルの2階にガラス張りの飲食店があり、板前がカウンターから出てテーブルの横に立ってお客と談笑しているのが見える。どういう話の流れか挙手までしている。昭和に建てられたと思しきマンション。軽トラが横付けされ、筒状の暗い色の敷物が何本も搬入されていく。こんな時間になぜ。海外旅行客を吸い込む閉店間際のジャパン。こつ然と出現する年季の入ったラブホ。歩いたことのない道は楽しい。駅前に到着。時刻は23時前。ベロンベロンに寄った泣き上戸のおじさんを擁するグループが会計中の人を居酒屋の前で待っている。こんな時間なのに満席に近い店が続々とあり、しかもお客がまだまだ盛んに飲み食いしている。公園も人影でいっぱい。閉店作業の着々と進むスタバの前のベンチでフラペチーノのカップを手に話し続けている女の子ふたり連れ。全員、今日はオールするつもりなのかというくらい帰る時間を気にしていないように見える。ここは梅田ではなく京橋。自宅近くで飲んでいるという余裕があるのかもしれない。