20240406

朝起きてすぐ布団を干し、毛布を干し、クイックルワイパーをかけ始めたところで彼氏から連絡があった。電車に乗ったという。身支度を何もしていないので一旦家に来てもらうことにする。がらんとした部屋に置いた椅子に上着を着たまま腰掛ける彼氏の横で靴下を履いた。そこの電線にちっちゃい鳥が来るようになってん。スズメとかでもない知らん鳥やねん。この部屋来て10年以上なるけどこんなん来たことないと思う。さほど興味がなさそうだがシジュウカラの話を続けると、「何匹?」。たぶん特定の1羽が来ている。ウィークエンドサンシャインの時間なのでラジオからはおしゃれな曲が流れている。自分で選曲していない楽曲がボタンひとつで流せるのでラジオは人が来た時に便利。 8時15分に家を出て、桜の植えてあるところを目指して歩いていく。去年以前の記憶が頼り。今年はそこにしだれ桜を見つけた。しだれ桜スポット1、自宅近くの公園。誰もおらずゆっくり観察できた。パン屋に入ると髪を細い三編みにした幼稚園くらいの女の子がおつかいに来ていた。店員がトングとトレーを持って、女の子の指差すパンをのせていく。いつもありがとうねと言っていたので常連だろう。我々もいちじくとクリームチーズのベーグル、ウインナードッグ、クリームパンを買う。クリームパンにはペンギンの焼印が押してある。 宝山寺の参道が桜並木になっている記憶があったが、参道入口のほうはそうでもない。ちらちらと見える桜の木を目指して脇道へ逸れていく。健民グラウンドに誘い込まれると、桜の木の下で10人ほどがドッヂボールをしていた。大人子供、男女混合チーム。ばらばらの、しかし普段から運動の習慣がありそうな蛍光色のジャージ。土曜の朝からとりくむだけあってどの子もクラス1の逸材に見える。大人はフェイクを入れつつチーム関係なしにプレイを褒める。こんなドッヂボールを見たのは初めて。ベンチに座ってパンを食べながら桜そっちのけで観戦した。ドッヂチームの他にはスウェット上下でトレーニングをしているおじさんがいた。黙々とこなしているようでよく見ると思いつきで動いている。急に駆け出して高い鉄棒につかまり、パッと手を離し、地面でブリッジをし、グシャシャと砂の上に頭から崩れる。崩れた瞬間「イタタ…」と彼氏。時おり我々の座っているベンチを覆うコンクリートの小屋の壁に飛びついてくるのがハッハッという息づかいと人影でわかる。寝間着のようなスウェットの背中やお尻が砂埃でドロドロだ。彼氏のコメント「帰ったら家の人に怒られる」。一人暮らしかもしれないし洗濯担当かもしれないではないか。と思ったが黙っていた。 ケーブルカーの踏切を渡って参道に戻る。上り列車は超満員。山上の遊園地に行くのだろう。とある民家のガレージでミモザの大木が満開になっていて見事だった。毎年花見に出かけるまで忘れているのだが、この時期桜以外に満開になっている花は多い。ユキヤナギ、チューリップ、ネモフィラモクレンは散りつつある。背の低いスイセンのような白い花。タンポポやレンゲやオオイヌノフグリなどの雑草も花を咲かせている。 ケーブルカーの宝山寺駅に近づくにつれ参道が桜並木となった。気温も上がり、上着を腰に結んでいる人も多い。うららかな陽気の中で、ところどころ開け放たれた料理旅館の戸の向こうだけひんやりした空気が漂っているように見える。人気はまったく感じられないが、三和土に足を踏み入れるといらっしゃいませと出迎えられるのだろう。店先に打ち水をしてある旅館もある。このあたりは宝山寺新地と呼ばれる。お客が入っていくところはまだ見たことがない。 宝山寺にお参りしていくことにする。車で来た家族連れでそこそこ賑わっていた。正月には何も置いていなかったところに運動会にあるような白いテントが立っていて、護摩木に願いや名前を書き込む机が設置されていた。ずらりと並んだ願い事の四字熟語ハンコ。罪滅ぼしもできるのか。ふと掲示されている数え年の表を見ると終わったと思っていた本厄が今年だったので厄除け祈願することにした。どこに提出し、お金を払うのだろう。「ほら、あのおばあさん書き終わって持っていくで」と彼氏が耳打ちしてくれる。なんとなく横で見ていてくれるものと思ったが、その後はトイレに行ってしまった。護摩木を手にテントに戻ってくると、向かいで年配の女性が7本くらい猛然と名前を書き込み、「コイツはこれにしよ」などと言いながら祈願ハンコをポンポン押している。白っぽいフレームの眼鏡の奥の眼光が鋭い。耳にかかる髪は深い緑色だった。連れの「全員分書いてあげてるの?」に対する「いや、アイツはええねん。アイツは大丈夫。」の返しが小気味良い。 午前は花見、参拝。午後はアマオケの練習。疲労困憊で帰宅して風呂に入り、ベッドにひっくり返ってネットサーフィンをして人心地ついた後LINEをひらいて写真を彼氏に送った。グラウンドに立つ彼氏。「この時名前出てこやんかったけどここバッターボックスやな」とコメントをつけると、「ここはピッチャーマウントやな」と返信があった。言われてみればこんなグラウンドの真ん中で打つ訳がない。隙を見せても、というかアホ丸出しの事を言ってもからかったりせず、こちらに恥をかかせない。こういう返しに凄く癒やされるし、自分が揚げ足をとったりツッコんだりせずにいられない人間なので尊敬している。