6月後半

THEATER ARTS 66号 特集:ジェンダー舞台芸術

シアターアーツ 66 2022春

 

古後奈緒子「人間の輪郭を書き換えるダンス」で、佐々木美智子バレエ団の公演「くるみ割り人形が取り上げられていた。知り合いがこのバレエ団の団員のバレエスクールに通っていたことから、数年前に大阪は八尾のプリズムホールで行われた合同発表会に足を運んでいた。佐々木一族でバレエ団を組織、運営していて、それぞれに教え子がいる。「家族総出でバレエに励み、兄弟姉妹が切磋琢磨して世界に羽ばたき地域に貢献するといった、大阪いや日本のバレエの戦後史を支えてきたグローカルなファミリーストーリー」。まさにその通りだった。佐々木美智子さんは公演の最後にゆったりしたパンツスタイルで颯爽とステージに登場し、出番が終わって客席に座っていたちびっ子バレエダンサーを最前列に呼び寄せて飴をばら撒いていた。まだみんな本番衣装を身に着けたままで、大盛り上がりでステージに手を伸ばす。毎度のお約束らしい。いくらでもズボンのポケットから飴が出てくる。その所作と間のとり方の優雅なこと!こんな世界があるのか…と、帰宅後プログラムを読んだり兄弟姉妹のSNSを探して留学生活を覗き見たことを思い出す。

「日々の身体との対話から得られる喜び、そして絶えざる変容」へと方向づけられる「くるみ割り人形」の演出について語られていて、アマチュアプレーヤーとして胸が熱くなった。

 

治部れんげ『ジェンダーで見るヒットドラマ』

ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本 (光文社新書)

水準が低いので日本のドラマを取り上げる気にならなかったと吐露する著者が、自粛生活でハマった海外ドラマを紹介。時にバッサリ斬り込む人物評が痛快だった。

 

シモーヌ 7号 特集:生と性 共存するフェミニズム

シモーヌ(Les Simones)VOL.7

優生思想についての年表。立命館大学生存学研究所のホームページが参考資料として挙げられている。原一男作品を初めて観たのが立命館大学で行われた上映会(「さようならCP」)だったから、この研究所主催だったかと調べるとやはりそうだった。2016年。何でも見ておくと後々役に立つものだ。

 

斎藤真理子『韓国文学の中心にあるもの』

韓国文学の中心にあるもの

フェミニズムに興味があって数年間韓国文学を読んできて、でも時代設定が現代ではないものは避けがちだった。フルタイムで働く女性が主人公の小説を手に取ってきた。それが最近、朧げながら歴史上の事件を通して韓国史が頭に入ってきたところ。「朝鮮戦争は韓国文学の背骨である」という章立てもされている。

ツイッター上でフォロワーに「あそびの音楽館」という老舗サイトをすすめていると、やりとりを目にした斎藤真理子さんがリプライをくださった。譜読みのために探し出した、交響曲を含むクラシック曲のピアノ連弾バージョンの打ち込み音源サイト。なぜか私が大好きなこの音源の良さが見事に表現されていて、さすが翻訳者だった。

 

ファン・ジョンウン『野蛮なアリスさん』

野蛮なアリスさん

アリシアが君の無防備な粘膜に貼り付くよ。」冒頭から一気に引き込まれる。文体がかっこいい!ファン・ジョンウンの著作をどんどん読みたい。言い方を嗜めて話を終わりにされる絶望をまた味わった。

 

武田砂鉄『マチズモを削り取れ』

マチズモを削り取れ (集英社文芸単行本)

満員電車に、社員食堂に、鮨屋のカウンターに潜入。前に手に取った時はあまりの臨場感にげんなりして読むのをやめたほど。たとえ文章内でこき下ろしてくれるとしても。元気があったので読むことができた。

 

神野知恵『韓国農楽と羅錦秋』

韓国農楽と羅錦秋―女流名人の人生と近現代農楽史 (ブックレット《アジアを学ぼう》)

裏表紙には羅錦秋の若い頃と、近年の写真があしらわれている。渡韓して行動をともにし、研究をすすめてきたという著者。農楽との出会いは韓国の大学の農楽サークル。そこから話が広がっていく。

 

□夏が来る

逃げ場のない湿気。これから数時間は上がり続ける気温。不安定な気圧。ここ数年初夏の朝は一日の体調を案じることが多かったが、28日に家を出て駅へ向かっているとき、久しぶりにワクワクする気持ちが上回った。夏の予定、これといったものはないのだが。先週ツイッターにビアガーデンでビールを掲げる写真が流れてきて、シーズンのはじめに行っておくのがよさそうだと思った。

 

□散髪
美容院はもっぱら散髪のために利用している。数年前「今日は前髪だけ」と言うと「前髪だけとかいう様相じゃないですよ!?」と返してきた店長にずっと切ってもらっている。「短くしてください」「(切り口が)ピシッとしてたほうがいいですか、シュッと(なじませて)することもできますけど」「ピシッとしてください」というやりとりを経て、あまりこういうことはないのだが途中で寝ていると後ろの生え際がガンガン刈り上げられていく。こんなにするとちびまる子の後ろ頭のようになっているだろうが、眠気には勝てず、またある程度美容師の腕を信用しているのでそのまま寝続けた。目を覚ますと「業界紙のようになりました」と店長。かっこいい!しかし顔面が追いつかないのではないかと不安になる。ここである人が自分の顔について「整形してるんで美容外科の先生の作品だと思ってます。自分の顔に対する評価じゃないから何言われてるかとか気にならない」と言っていたのを思い出す。少なくとも髪型は店長の作品だからいいか。気になったらマスクをしていればいい。

 

無印良品
25日の昼、職場の同僚Nさんが自席でスパゲッティを食べている。どんぶり型のジップロックにスパゲッティが入っていて、同僚が左手にスプーン、右手に箸を持って(これが一番食べやすいのだろうか)オレンジ色のパスタソースを絡める度にほかほかと湯気を立てる。ラップに包んだ粉チーズをかける。トマトソースではないこの香りは何だろう、と10分くらい考え続けてエビクリームソースだとわかった。「いいにおいしますね」と声をかけると恥ずかしそうに顔を伏せる。「やばい?めっちゃにおう?」「スパゲッティやなとしか思わないですけどね」職場に出入りしている仕出しの弁当屋が「カレーの日」を設けているのだから、基本的には何を食べても咎められないはずですよ。と持論を展開した。これは私が先週キーマカレーを持参して食べた後に考えた。「ずっとカレーを持ってきたかった」とNさん。入社してずいぶん経つが、私は日々抜け道を探して歩いてきたんだなと思った。

帰りに無印良品に寄ってエビクリームのパスタソースを買い求める。久々に行くとバウムクーヘン屋のようになっていた。お菓子売り場の入り口に大展開されている。裏へまわってもまだ違う味のバウムクーヘンが並んでいる。いつかNさんが職場で食べていた紅茶味のバウムクーヘンの香りを思い出す。おいしそうだったな。一度は振り切ったのにレジ前にまたバウムクーヘンが並んでいて、波状攻撃に負けてバナナ味と紅茶味を買ってしまった。人気1位、2位のポップがついている。2本で10パーセントオフ。投げ売りされていたラープの素も買う。辛口と書いてある。無印はイノセントな企業イメージとは裏腹に容赦なく辛みをつけてくることがあるが、これはどうだろうか。1年以上前に買った火鍋の素がまだパンかごに残っている。

 

さくらん
21日の午後、総務の女性社員がパックに入ったさくらんぼを「部署で分けて」と持ってくる。たまたま手が放せない業務中だったので立ち去った後、え~、私忙しいんですけどとブーブー言うと、Nさんが紙コップに入れて分けてくださった。どう小分けにするのか。素手で配っていいのか。ご自由にどうぞ方式では捌けないし。部署というのはどの範囲までを指すのか。出張でいない人にはとっておくのか。決めづらいことがやんわり委ねられている嫌なシャドウワーク(やってもらったのにまだブーブー言う)。ワーワー相談していると「俺いらん」「僕もアレルギーなんでいらないです」と申告があった。等分する前に言ってもらえると全然違う。仕事の合間にデスクで食べる果物もさっぱりしておいしい。

23日、山形交響楽団の大阪公演を聴きに「さくらんぼコンサート2023」へ。ここ何年か行ってきた人が来場者全員へのおみやげとして配られたさくらんぼの写真をツイッターに投稿しているのを見ていた。ラデク・バボラーク半分、さくらんぼ半分につられて足を運んだ。当日券を買い求める。隣には「山形県人会関西支部」と書かれたカウンターがあった。近くの店で夕食をとってギリギリに入場するとプレトークの最中だった。しまった!オレンジ色のはっぴを着たラデク・バボラークと通訳(と思ったらコンサートマスターだった)。進行をしている男性がコンサートとスポンサー、全員に対するおみやげ(東根市さくらんぼ、仁丹の喉飴)、プログラムに貼られたシールで当たりがわかるおみやげ(高級さくらんぼ、仁丹のサプリメント「ビフィーナ」)の説明をする。S席5100円のコンサートでこんなに大盤振る舞いするなんて、ぜひ公演の収支報告が見てみたい。東根市、仁丹(これは大阪の企業)のほかにはでん六山形新聞社、山形放送がクレジットされていて、各企業の役員が理事として名簿に名を連ねている。団員は胸にさくらんぼのバッジをつけている。とにかくさくらんぼなんだな。富山のチューリップテレビみたいなことだろうか。3階席もP席もお客を入れていないが、終演後に「bravo」とかかれたタオルを掲げているお客が何人かいた。これは公式グッズなのだろうか。関西のプロオケの客席では見たことがない。久々のS席で演奏を堪能した。弱音が印象的に聴こえたのはS席の音響か、普段小編成で古典にも力を入れているオケの力量か。ロビーで物産展がひらかれているのを横目にさくらんぼを受け取ってホールを後にした。客層、演奏、パンフレット、定期演奏会のチラシ。こんなに目新しくて楽しいなら積極的に国内オケのツアーの関西公演に行ってみようかな。旅先でコンサートに行ってもいい。

 

□読書会

情報ライブラリのカウンターで貸出手続時に案内を受けて、ドーンセンターの読書会に参加した。課題図書なし、「わたしのリラックス」というお題に沿った本を持ち寄って語り合う。90分、参加者7人。ハーブティの香り漂う穏やかな時間だった。透明になっておしゃべりにただ耳を傾けていたいという気持ちは、自分の人見知りの性分によるものか、場のありがたさと充実度による満足感からか。他の参加者が紹介しているのと同じ著者による本を持っていた人がいそいそと自分のトートバッグを探り、「あの、これ……!」と取り出した声色の切実さ。私はなんだか胸を打たれてしまって声も出なかったが、ドッと場の温度が上がって盛り上がったひとときだった。また、「今旅先なのですが、友人にくっついて来ました。大阪の方々とお話できて嬉しいです!」と発言された方がいて、こちらも満たされた気持ちになった。