20240113

大阪天満宮近くの工房にメンテナンスのため楽器を預けて出てくるとまだ11時になっていなかった。ギャラリーNprojectへ向かう。風が強い。11時オープンがありがたいが、工房から近いというだけの理由で初日、在廊日、オープン直後に行くのは気が引ける。作家の知り合いが何人かいるだろうか。ドアの外に漏れ聞こえてきた笑い声はギャラリースタッフと作家のもので、他にお客はいなかった。ペーパーもわかりやすいし、いいタイミングでスタッフが声をかけてくれるし、知りたいことが湧き上がってきたタイミングで作家に質問もできて充実した鑑賞体験となった。嬉しい!

□相川勝「shape,shade,shadow」
新作「specimen」は透明な樹脂の写真作品。透明でツルツルの無機質な見た目でいて、うつっているのはブロッコリーや鰻の蒲焼、セミなどもある。一見何がうつっているかわからない作品も、貸し出されたライトで照らすと影がくっきりして見えてくる。何かわかっていた作品は、ライトを向けた瞬間表面の模様や質感がグッとこっちに迫ってくる。魚の鱗。スニーカーのメッシュ素材。コーヒーカップにつけられた花の絵。建物の窓がそれぞれどれだけ開けられているか。バナナのスイートスポット。一旦わかるとライトを消してもスイートスポットが見えっぱなしになる。トリックアートのように見え方が持続するのが一番面白かった。

2007年から制作を続けているとい「CDs」は愛聴しているCDのジャケットを肉筆で再現。油彩で写真もイラストもそっくりに描かれている。帯やシール、歌詞カード小さいフォントの文字も絵筆で描画。そこを見て初めて手書きであることがわかるほど精密。名盤が多いこともあり、ギャラリーの一角が古本市のCDコーナーになったよう。CDには作家が吹き込んだ音源が収録されている。オリジナルの音源をイヤホンで聴きながらアカペラ歌唱、一発録りだという。フルトヴェングラーの第九(の再現歌唱)が聴けた。ジャケットの精密さに比べるとおおらかな感じがした。「ヌア~♪」「メレメゥヌエ~♪」などと拍がはっきりしない口唱歌。カルチャーショックを受けた。アマオケで耳にする「ターララ」というような口唱歌は数ある要素のうち、音の出るタイミングを再重視したものでしかないのではないか。

ギャラリーの近くにMから話を聞いたことがあるアラブ料理の店があるのを発見。マトンランチセット。レンズ豆のスープ、キヌアのサラダ、野菜のフッハーラ、バスマティライス、ミントティー、バグラヴァのセットを注文。フッハーラは土鍋料理。運ばれてきた時、巨大などんぶりのような陶器の蓋をスタッフがとってみせると鉄板の上で煮込みハンバーグのような料理がグツグツ音を立てていた。油も塩気もしっかりついているが、ところどころ酸味が効いていてさっぱりする。バスマティライスもスパイスの香りがすごくよくて、それだけで平らげられそうなほどしっかり味がついている。普段からこんな味付きごはんでおかずを食べているのだろうか。贅沢な感じがした。14時ごろ食事を終えて店を出たが、地下鉄でふた駅先のギャラリーhitotoに着いたのは17時ごろだった。途中古本屋3件、アジア(主にタイとインドネシア)食材店に寄り道した。

□下浦萌香「大切なものを見つめるための装置」
1センチから5センチくらいまでの、長方形の紙片を上に上に重ねてある。何かの手違いでモニタのこちらがわにひたすら積まれたテトリスのような。タバコの箱〜新書くらいの厚みと大きさになるまで貼り重ねてあって、持ち重りがする。紙片はもともと一枚絵なので、全面にボンドが塗られて作品の深層に位置し、見えなくなっている紙片にも色が塗られている。力強い存在感があり、意外に頑丈。プチプチにくるんでカバンに放り込み、旅先で飾ったりもするという。薄い作品はハサミを入れて分解し、新たな作品の制作に使うこともある。ここでも作家が在廊中で、できあがった作品とどう付き合っているかをお伺いすることができた。大変興味深い。