上着を間違えて寒いので早くお店に入りたいがラーメン屋だと食べ終えたら出ないといけないし、新大宮には土地勘がない。先日行ったアポロは水曜定休。会場近くは住宅街で何もないが、大通りに出ると和食さとがあった。他に飲食店は見当たらず、年配の女性ふたりの後について入店した。外開きの扉を押さえて、より年配の女性が通りぬけるのを待っていると先に入った女性が振り返ってペコペコ会釈した。「3名様ですか?」「いえ…」というやりとりも聞こえた。
薄暗い角の席に案内され、これなら多少時間を潰せそうでドリンクバーも頼む。さとのドリンクバーもソフトクリームが巻けるのだ。これで食後にコーヒーフロートかアフォガードをつくる。今は寒いので食前にもかかわらずココアだ。壁ではなくて店内のほうへ向いて腰掛けるとシートとシートを挟んで隣の4人席にひとりでぽつんと座っている虚ろな顔つきのおじいさんと向かい合わせになり気まずい。やがておじいさんの連れ合いがドリンクバーコーナーかどこかから戻り、おじいさんの顔にも表情が戻った。
久々に来たさとは記憶の中のかごの屋より単価が上がっていて、天ぷらもお刺身もお寿司もついていなくていいのだが。すき焼きなら食べたかったが国産牛だとかで2000円以上した。平日限定ランチメニューの片隅に日替わり定食があったのでこれにする。選べる一品からは豚汁。やがて配膳ロボットが丼いっぱいに立派な豚汁を運んでくる。店員に尋ねるしか知るすべのない、今日のおかずはかき揚げと鶏天だった。豚汁定食として大きく掲載すればもっと出そうなのにそうしないのは、もっと単価の高いメニューを頼んでほしいからか。
ふと隣の席を見ると、おばあさんがビニール袋にご飯を詰めて持ち帰ろうとしていた。スーパーで生鮮食品を入れたりするシャリシャリの袋。あっという間にテーブルの下でカバンにしまわれ、ご飯の入っていたお膳にお茶を注いでご飯粒をさらえていた。家でチャーハンの材料にでもするのだろうか。正直ぎょっとしたが、この年齢の人が頼むような分量のメニューが少ない。日替わり定食にはご飯小盛を指定するボタンがあったが、料理の傾向としては肉やら海鮮やら蟹やらいくらやら、豪勢な料理を食べさせようとしすぎではないか。さとだけではなく外食産業全体にそう思う。
90度反対側の席には3人の年配の女性がいて、ひとしきりタブレットに注文を打ち込んだあとで呼び鈴を押し、「今打ったんですがいけてますか?」と尋ねていた。何分もかけて3人分の定食のあれこれ(選べる一品、うどん/そば、温/冷など)を指定しまくったにもかかわらずなぜかデータは消えていて、一から口頭で注文することになったがさほど残念そうでもなかった。うまくいかないものだという気構えが3人ともにある。店員が去ったあと、セルフレジの話をしつつ「何でもやってみらんな(みないと)できるようにならへんね」と頷きあう時間があった。スーパーは大丈夫だがユニクロがうまくいかないらしい。こんなにやる気に溢れた人たちなのに注文を通せないシステムに問題はないのだろうか。思わず自分のテーブルのタブレットも確認してみたが、注文完了していた。どこに引っかかったのだろう。
12時を過ぎてもさほど混み合わない。昼休みに来るお客が少ない。ご予約のお客様であるスーツ姿の男性が3人クリアファイルや書類を抱えて入ってきて、店でひとつの個室へ消えてい…く前にひとりが流れるような足取りでドリンクコーナーへ向かい、人数分のお茶を入れる。法事の日に使う部屋だと思っていたが、商談に使っている人もいる。
□岩村暢子「家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇」
この「写真」は画像ではなく現像してプリントされた「写真」で、平成24年の本。お花キティの麦茶ケトルのある食卓、平成の食卓。その光景の懐かしさとありのままの献立、作者の辛辣なコメントに惹かれて購入したが読み進めるうちにだんだん腹が立ってきてこの本も駅のゴミ箱行きかと思われるほど。糸井重里の「頑張れ自炊くん」という本で味噌汁に出汁としてめんつゆを入れているというおたよりに「それは、違うよ」とコメントしているのが嫌で嫌で持っていられなくなり、駅のホームのゴミ箱に捨てた、と昔話をブログに書いたらよりによって「編集部」にピンポイントで抜粋されて最悪の最悪煮込みが出来上がった。それはともかく仮に家での野菜不足の食事が子供の便秘の原因になるとして、妻に全ての責任があるとしているのが我慢できない。更に、夫が生活習慣病になるのも妻のせいなのか。誰にも束縛されずにただ放埒な食生活を送っている成人ではないか。この非対称性を思えばたまに(本人基準で)凝った料理を作った日に「満足気」に本書のためのアンケートのコメントを書いていることなんて取るに足らないことではないか。