12時過ぎにキタカガヤフリーの会場へ着くと、入場者の列ができていた。スタッフに声をかけて脇の扉からクリエイティブセンターの建物に入って、小走りでカロブックショップのブースへ向かった。石川さんは・・・いない!予定していた時間に遅れたので入れ違いになったのかもしれない。マスクの下で息をはずませながら小さくなっていると、A4の紙とボールペンを持った石川さんが戻ってくる。いつものエプロン姿ではなく、カーキ色の生地にショッキングピンクのプリントのTシャツ。インドネシアのものらしい。通路を挟んだ向かいのインドネシアの出版社のブースと行き来して後に登壇するトークショーの打ち合わせをしつつ、接客しつつ、私に店番中の業務説明。石川さんはバタバタ、私は無意味にその場でジタバタしていたらあっという間に1時間が過ぎた。その間にスタッフの方がさっと立ち寄って辞書のような日めくりカレンダーをお買い上げ。重くかさばる商品が早々に売れ、持ってきた甲斐があった!と喜んでおられた。そしてその後に来られた20代くらいの男性が私のフリーペーパー(ノーパンZINE)をもらってくれ、幸先がよかった。ふたりの目的達成ケージがぐぐんと上がった。今思えばこの人がフリーペーパーの内容には特に触れずリソグラフ印刷に興味を示されたのも楽しい展開を生んだ。私は「これです!」と首から下げていたスタッフパスをはねのけて着ているTシャツを引っ張って印刷機の絵を指さし、石川さんは「ワークショップがあるからフロアのどこかに・・・あれです!どうやって運びこんだんだろう信じられない」と言っていた。男性は黄緑色のノーパンZINEを持ったままクルクル体の向きを変えて印刷機を探していた。
13時、昼食のためブースを離れる。既に通路の一部で渋滞が起こっていた。建物の外の屋台コーナーは人人人。行ったことのあるカレー屋の店主の姿を探して、見つけて、顔見知りではないので遠くから見ることしかできないが満足する。そして初めて見るお店を食べたことがあるお店にする。アフリカンプリントのブランドKay Lenのスープカンジャ。色とりどりの布で飾りつけされた屋台には家庭用の炊飯器がデンと置かれている。メニューはスープカンジャのみ。長身の男性が鍋からよそってくれる。おそらくセネガルの人で、柄パンがよく似合っている。会計担当の人が「おいもう米ないんちゃうか」「今日7時まであるんやぞ」と笑うが、どこ吹く風だった。テーブルの隙間を見つけて立食。屋台でよそってくれた時からふんわり磯の香りがしていて、口に入れると鮮烈。アサリやサバが入っているというが、ショウガを大量に入れたくなる味。ギリギリの旨みが異国の味だった。
15時15分、ひとりで店番開始早々山の上の本棚さんが現れた。が、「情報過多で本を選ぶ気にならない」とげっそりされていた。私もキタカガヤではそうなりがちで、だからこそ店番をさせてもらえて渡りに船なのだ。お客として足を運ぶと、この他校の文化祭のような雰囲気にのまれてしまう。本屋さんや作家さんと知り合う前は、知っているカレー屋の顔を見に屋台コーナーへ行ったものだ。先ほども書いたがこれでちょっとだけ寂しくなくなる。今だって数ヶ月前から予定を空けて情報を集めておいて出店ブースの中にいさせてもらってやっと、積極的に楽しむことができる。お客として参加する場合、キタカガヤフリーの中での目玉イベントを見つけておくのもよさそうだ。15時半からのトークイベント直前にインドネシア関連の学術書がぽんぽんと2冊売れた。あの方々はトークイベントに時間を合わせて来場したのだろう。商品の説明も不要だった。
20代後半の女性ふたりがブースにやってきて、そのうちひとりがノーブラZINEの見本を手にとったので自分が作ったことを明かし、フリーペーパーのノーパンZINEをすすめる。石川さんが何度も「この人が作ったんですよ」と言ってくれてようやく自分で言えるようになったのだ。すると「あの、いきなり何?て感じなんですけど私…」と下着事情を明かしてくださった。横で「そうなの?!」とご友人。驚きつつも「あ、でも私は」とお話してくださり、「マジで?!」と驚き返す展開に。こんなに楽しいことはない。ノーブラZINEはそのためのツールなのだ。この人らには売れなかったのだが、これだけ話せる人ならツールはいらないだろうと腑に落ちた。制服があったころ、職場の女子更衣室の居心地が悪すぎて夏は制服を脱ぎ捨ててワンピースを頭から被り、冬はブラウスの上にそのままダウンを着てチャックを首まで上げて更衣室を飛び出していた。何がそんなに嫌だったか。ユニクロのブラトップは家用の下着で、父親がいるリビングに行く時につけるもの。ユニクロのショーツは家用の下着。家に帰ってから穿き替える用。ガードルを20代からつけておかないとボディラインが大変なことになる。運動とかしてる?なまけちゃだめよ。一言も返事をしないうちから勝手に話し続け、自分が囚われている規範の中へ引きずり込もうとしてくる女が何人かいた。全員じゃないけど無理だった。あるお客さんにノーブラZINEのことを一言で説明できずただ読んでもらっていた時、「これは快適な過ごし方を提供しているんですか?」と尋ねられて絶対に違うので煩悶していると、実践の記録であることを汲み取ってくださった。選択肢はもっと広いし最適解は自分で決められるものだと思っている。そっとノーブラZINEを手にとって読んで、特に何も話さず買っていかれた方々の衣生活にも幸あれ。